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「何分ごらんの通りの未熟者でして――」
「なに、訴訟?」
「いつこちらへお帰りでしたか」
徳次はしばらく考へていた。
「はゝ、知つているな。よし、よし何もいやしない」
日は高く上つて、噎むせるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の魚籠びくを中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。
「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
と、加藤巡査は無意識に汗の滲み出た額のあたりを指でこすりながら、心配さうに大小の焚火を見やつた。彼の声はしはがれていた。
右手の台所の方ではしきりと物音がしていた。道平より先に朝早くから手つだひに来ている房一の義母と、まだ結婚して間もない盛子とが土間を掃いたり戸棚を拭いたりしているのだつた。
河原町の上手を出外れると、やはり一帯は桑畑の中を、路はだんだん上り勾配をましながら川から遠ざかつて行くのだが、左手に迫つている山腹の下方にとりつくと、そこから急に路面も赤土になつて、途中でいくつも屈折した坂路が山を越えて杉倉の方につゞくのである。
「あの訴訟はどうなつたのかね」
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。